艱難辛苦を振り返る方法

私が直感に任せて書きたい放題書いている手記の中身をざっくり眺めていたところ、4年ほど前の古い手記の中から、面白いものを見つけたので紹介しようと思います。それは、辛かった過去を振り返る方法についてです。

僕らは、哀しい過去を物語にする。
そうして、幼い過去をあやして、
入口に蓋をしてそっと仕舞う。
「そんな現実は夢であっておくれ」
と、呟きながら──。
やがてくる現実に立ち向かうために、
学び続けた幾千もの悲壮な過去を、
たまに取り出して、そっと愛でるんだ──。

(私の手記より引用)

振り返りの方法

tribulation

振り返りとは、殻の外へ出た時に、殻の外の視点からしかわからないことを整理する行為です。殻(箱庭)の中で苦しんだ経験をした挙げ句に、苦しみの役割が終わって殻の外へ自らを追いやった時、殻の内側にあった苦しみという経験は、殻の外側からはまた違った見え方になります。ただの苦しみでしかなかったと思えたことが、とても大切なことを物語るものに姿を変えるのです。

失敗や苦難を振り返る上で整理すべき3つのこと:

  1. 行動する上で考えていた自分の信念(観念)について
    • 自分がその行動や選択をした上で、その動機として、自分はこのような考えを持っていた、こう信じていた、ということを、誰も責めない環境で洗いざらい書き出してみましょう。
  2. 実際に起こったことについて
    • 実際の出来事や因果関係(原因や結果など)だけでなく、自分の心境にどのような変化があったか(例えば、どのような苦しみを体験したのか)について整理しましょう。自らを責めることなく、心境を具体的に整理することによって、効率的に自分を慰めることができるようになります。
    • 上記 1. の自分の信念(考え、観念)とも関連づけてみましょう。自分はこう信じていたはずなのに、なぜそうなってしまったのか、考えるきっかけになります。
  3. そこから学んだ、自分にとって大切だと思うこと
    • 上記 1. が設問に対する誤答に相当するならば、この 3. は模範解答に相当します。振り返りは、この 3. の気付きを得たタイミングで行うのがベストです。ただし、気付きを得るタイミングが訪れないと感じることがあっても、意識的に 1., 2. を整理することによって腑に落ちることもしばしばあります。

上記に当たっての注意事項:

  • 後悔については 3. の模範解答とは性質・目的・意図が異なる (後悔とは責めること) ので、後悔したことそれ自身について上記のことを整理してみましょう。
  • 自分の考えが誤っていたからといって、決して自分を責めてはいけません。そうすると 3. の気付きを得るタイミングを先延ばしにすることになります。自分を責めさせるような、あらゆる誘導を無視できるように努めてください。自分を責める傾向がある場合は、上記と同様に、自責それ自身について上記のことを整理してみましょう。

一見すると身も蓋のないアクティビティのように感じますが、誰にも責められない状態で、自分を責めないことが殊更に強調されています。考えてみればその通りで、艱難辛苦においては自分の周囲における人や環境は常に自分にとって都合の悪い状態を呈します。そして自らが責められて然るべき状態というのは明らかにこの「不都合な状態」であり、その状態で自らを振り返ろうとする行為は、「殻の外に出ていない」ので、意味を成さないのです。

由来

この手記を記したのは4年ほど前、2013年頃のことです。当時はチームで仕事をしていたのですが、仕事の内容がめまぐるしく、そして仕事の手順もシステマチックに確立されていて、毎週のように仕事の内容を振り返ることで環境を改善していこうという仕組みがありました。KPT法(Keep,Problem,Tryの頭文字)によるチームでの毎週の振り返りのほか、1ヶ月に一度ほど、チームリーダーと1対1で面談しなければなりませんでした。

私が面談をすると、私はリーダーの敷くレールに従って自分をさらけ出すことを強要されるので、私は不快に感じていました。特に、自分自身に関する問題点を指摘され、それを改善する方法について理解し合うためには、お互いの価値観を共有できて、安心できている必要があるわけですが、その肝心な環境や雰囲気はありませんでした。

リーダー
じゃあお前は、いつまでもお前自身のbehaviorを改善できないまま一生過ごすんだな。ふーん。

リーダーからはそんなことを言われた気がします。今思えば、取り締まりにあったときのように録音しておけば良かったです…。帰宅後、精神的に疲れ果てた状態で床に就きました。その時はもう寝ようと思っていましたが、何か声が聞こえたような気がしたのと、なんとなく手がうずうずするように感じたので、一旦ベッドから起き上がり、その場でおもむろにノートPCを取り出し、眠気を押さえることなく、ぼけーっとしながら、降りてくる言葉をメモしていきました。それは優しくて丁寧な言葉でした。気がつくと上記のような内容になっていました。

業務で行う振り返りというのは、表面的な行いのみに焦点が行きがちになるため、原因に対する根本的な解決策を掴めないまま無理矢理前に進んでしまうように感じます。特に、自分について内省したり、相手に内省を求めたりしても、それらの結果を共有できる価値観の枠組みが整っていないため、それらをそれぞれの都合に当てはめて理解し合うことができないのです。そのため、すべきことができなければ言葉や雰囲気で相手を責めてしまうし、いつかはどこかで行き詰まってしまいます。当時の私には、仕事とは関係のない範囲でも、表面的な行い以上に、自分の内面を良く振り返り、そこから得られる教訓に基づいて自らの外側を組み立て直し、毅然として仕事に臨む必要があったのです。

具体例

自らの経験に基づいて、試しに艱難辛苦の振り返りの例を挙げてみようと思います。下記のことは、書けばそれだけでまた1つの記事になりそうなので、詳細は割愛し、要点だけをまとめます。また、同じ境遇に遭遇した人でなければ理解し難い内容でもありますので、何卒ご了承下さい。

  1. 行動する上で考えていた自分の信念(観念)について
    • 決められた(与えられた)枠組みの中で、何らかの試練を必要とする環境下に置かれると、ひとたびそれを達成すれば、自分は幸せになれるに違いない (だから今は頑張らなければ) と思っていた。例えば、受験勉強を頑張って志望校に受かれば幸せになれるはずだとか、就職活動を頑張って納得のいく企業に就職できれば幸せになれるに違いないと思っていた。
  2. 実際に起こったことについて
    • 自分なりに受験勉強に精を出してみたものの、第一志望には受からなかった。受験した殆どの学校に落ちた。
    • 自分なりに就職活動に精を出してみたものの、応募した殆どの企業から不採用を受けた (ちなみに当時はリーマンショックの直後だった)。
    • ポイント: ゴールのその先に存在するであろう理想郷に目が行くあまり、自らの都合に関して自らの外側 (人物や環境) に期待をかけてしまう。その結果、自らの置かれている状況に関する本質を見失い、自らの興味から外れた範囲において、必要な (正しい) 努力の方向性が掴めなくなる。
    • 考察: 自らの外側に期待をかけてしまったのは、自らの繊細な感覚によって、自らの純粋な行動に起因する、適切なサポートのない失敗に対する外部からのネガティブなフィードバックや不快感を増幅させてしまうため、失敗を避け、目をつぶり自らを守ろうとしたのが原因と考えられている。
  3. そこから学んだ、自分にとって大切だと思うこと
    • 社会の仕組みは誘導と洗脳を強要する。価値観が一致しない範囲において、人や組織は相手を真に尊重することはできない。
    • 努力はそれを要求するような仕組みを作った存在による意図と自らの方向性・価値観が一致しなければ、表面的・現実的には報われることはない。
    • 自らの都合で他人に期待をかけてはならないし、それをして得られる前向きなものは何もない。
    • 自分を社会の仕組みから守るための規則を自分で確立しなければならない。
    • 本当の幸せは自らの能力を以て創り上げる以外には得られない。
    • etc.

注意事項

私達は誰もがそれぞれの艱難辛苦に直面します。そしてそこで抱える心の問題というのは、非常にセンシティブなものです。そのため、振り返りの実践にあたっては、最低限自らが一人で安心できる環境徹底的に整える必要があります。そして、手記本体にも書かれていますが、自らを責めさせるような、あらゆる誘導を無視できるように努めてください

None of them can (中略) corrupt the future tranquility of our minds, either by shame from the remembrance of our own folly, or by remorse from the horror of our own injustice.
──The Theory of Moral Sentiments, Adam Smith, 1759.

自らの愚行の記憶から来る恥や、自らの不正な行いへの恐怖から来る後悔によって、私達の未来の心の平穏が乱されることがあってはならない。
──アダム・スミス「道徳情操論」(1759年)

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コメント

  1. W より:

    昨日はありがとうございました♪
    素晴らしいブログですね!
    また時間のあるときにゆっくり読ませて頂きたいと思います(*^-^*)

あたたかなコメントを、どをぞ。

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